ラーミ図書館:イスタンブルで最も巨大な図書館

ラーミ図書館:元兵舎を使用した、イスタンブルで最も巨大な図書館

 

 2023年1月13日、イスタンブル最大の図書館となるラーミ図書館が開館した。オープニングイベントには現職のエルドアン大統領が参加し、この図書館について「図書館としてのみならず、文化拠点となるよう計画された」ものだとコメントを残した。

 

 広報によると、この図書館は51000㎡の景観エリアを持ち、建物内面積は36000㎡に及ぶという(東京ドームは46755㎡)。とにかく広いということを強調しているようだ。250万冊の図書を収蔵でき、4200人が着席可能。日本の公立図書館の平均蔵書数は12万冊とのことなので、ラーミ図書館は日本の公立図書館のおよそ20軒分の蔵書数を誇ると言えるかもしれない。なお日本の国立国会図書館と比較しても、敷地面積は30000㎡とのことでラーミ図書館の方に軍配が上がるようだ(国立国会図書館の書庫収蔵能力は1200万冊とのことだが、日本国内で出版された出版物が全て保存される場所なので当然だろう)。個人的には24時間365日営業という点が最大の目玉だ。

 

 ということで、私は開館したてのラーミ図書館へと向かった。イスタンブル中心部から少し離れた場所にあるものの、アクセスは良好。T4メトロのラーミ駅を降りると、目前に巨大な建物が立ちはだかった。これがラーミ図書館のようだ。

 この巨大な建物は新しく建設されたわけではなく、オスマン朝時代の兵舎を改装して作られたものだ。

 ラーミ兵舎はスルタン・ムスタファ3世(在位1757-74)の時代に竣工し、その後マフムト2世(在位1818-39)時代に改築が行われた。イェニチェリの兵舎が木材で建設されていた中、石造りでこのような近代的な兵舎を作るのは新しい試みであったようだ。その後、国内には似たような構造の兵舎が多く作られ、例えばイスタンブルにはセリミエ兵舎(1828年竣工)やダヴドパシャ兵舎(1826年竣工)(現ユルドゥズ工科大学キャンパス)が現存している。

 ラーミ兵舎は、オスマン朝が滅亡してトルコ共和国となってからも、1960年代まで軍によって使用されていた。しかし40-50年代にかけてこの地域に押し寄せたバルカン半島からの移住者の波と、それに伴った無計画な都市化の中で、この建物はほとんど放置されていくことになった。軍の手を離れた後は乾物問屋として使われ、その後は廃墟同然となっていたようだ。

 

 建物の大きさに圧倒されつつも図書館の方へ歩いて行くと、複合施設の完成予定図が張り出されていた。兵舎は左上。茶色い屋根で四角く囲ったような形をしている。

(周辺施設は未だ工事中であるものの、カフェ、バザール、グラウンド、ドッグランに子供用の公園と、盛りだくさんの内容となっている。)

(積み上げられた石の壁には赤煉瓦のアクセントが映える。)

(長い。)

 それなりに歩き、ようやくメインエントランスへと到達した。駅から見えた部分のちょうど裏側に当たるようだ。入口左手には建国の父・アタテュルクが、そして右手にはエルドアン大統領の写真が掲げられている。

 入って左手の廊下には、現代アーティストによる作品がいくつか展示されている。目についた部屋を覗いてみると、おそらく売店ミュージアムショップと言うべきか)のようだった。まだ営業はしていないようだ。ガラス戸の外から見た限りではあるが、なんだか期待できそうな見た目をしている。

 廊下に沿って椅子が備え付けられている。

 更に進んでいくと、国内最大規模となるらしいアタテュルク研究専門図書室があった。廊下にも数多くのアタテュルクの写真が展示されている。

 他にも、シアターや会議室、子供用図書室、個人用の勉強部屋といったようなものまで充実しているようだ。中でも子供用の遊び場は家族連れで大賑わい、廊下には人だかりができていた。

 しかしながらオープンしたばかりの1/15現在、開放されている部屋は少なく、貸し出しサービスは行なわれていない。蔵書もまだ整理しきれていないようだ。本棚をよく見てみると、ワンピースの47巻と進撃の巨人の8巻が紛れていた。

 建物はまだ終わらない。廊下を進んでいくと、言語に関する興味深い展示があった。トルコ語とその周辺諸語との関係や、周辺諸語と共通する語彙が展示されている。

 例えばこちらの画像左手、展示の関係でうまく写真に収まらなかったが、pazar(バザール、市場)というトルコ語の語彙について、中国語、ウルドゥー語アラビア語、ロシア語、アルメニア語、ハンガリー語ルーマニア語チェコ語ブルガリア語、ボスニア語、セルビア語、アルバニア語、マケドニア語、ギリシア語、ドイツ語、フランス語、英語に同様の語彙がある、といった趣旨の展示がされている。詳細な説明がないので展示の意図を汲みかねるが、単純に語彙の広まりを示すためであれば是非日本語の「バザール」も加えて欲しいものだ(因みにpazarはペルシア語から入ってきた語彙なので、これではトルコ語由来であると誤解を招きそうな展示ではある)。

 

 入り口からちょうど反対側に来たところで、少し狭まった入り口が見えた。入ってみると、少し蒸し暑い。中はオスマン朝時代の地図やキターベなどの展示コーナーだったが、ふと天井を見上げると丸い穴からポコポコと光が差し込んでいる。ここはどうやらハマムを改装した場所らしい。蒸し暑いのにも納得がいった。

 兵舎の模型でハマムが確認できた。直線的な兵舎の屋根が途切れ、ぽこりとハマムが組み込まれている。

 幾つか展示物があったが、そのうちの一つに「ラーミ」という名前の由来を解説しているものがあった。曰く、この地区にあったラーミ・メフメト・パシャ(1655-1708)の農場から名付けられたものだとのこと。ラーミ・メフメト・パシャはムスタファ2世の時代(1695-1703)に大法官の長を務め、後に大宰相になった人物だ。

 

 建物をようやく半周回り切ったものの、もう半周は残念ながらまだ開いていないようだった。建物に囲まれた中庭に出ると、そこは既に多くの人々の憩いの場となっていた。

 最後に、別棟の展示場を見た。コンスタンティノープルイスタンブル)を征服したメフメト2世の、写本コレクションが展示されている。

 詳しくは実際に訪れて見ていただきたいが、様々な学問領域におけるアラビア語・ペルシア語の写本が揃っている。論理学、哲学、形而上学、医学(外科・精神科)、天文学詩学、タサウウフ、イブン・スィーナーによる哲学書ガザーリー『哲学者の自己矛盾』、イランの民族叙事詩であるフェルドゥースィー『シャー・ナーメ』…。滅多に見られるものではない。

 イスタンブルに来た際には、ぜひこの図書館を訪問先の選択肢に入れてみてほしい。